顧客理解は「平均値」では届かない──EMPが示す“具体的な1人”から始めるペルソナ設計

マーケティングの現場では「ペルソナを作れ」と言われることが多い。
しかし、実際に出てくるのは平均化された“架空の誰か”。
年齢35歳、会社員、年収500万円──。
一見もっともらしく見えるが、実務では役に立たないことが多い。
コア・ランゲージ・ハブの EMP(ペルソナファイル)は、
その常識をあえて捨てる。
「平均ではなく“具体的なひとり”から始める」
これがEMPの根本にある思想だ。
なぜか。
実際に行動を起こすのは「平均値の人」ではなく、“特定の誰か”だからである。
■具体的な1人から始めると、ペルソナが“生きた人物”になる
EMPの推奨はシンプルだ。
「身近にいるあの人をモデルにする」
たとえば次のような実在の人物をペルソナとして扱う。
■例:名古屋在住・32歳・副業でデザインを始めた「香織さん」
- 32歳、名古屋市在住
- 会社員(事務職)
- 副業としてデザインの依頼をSNSで受け始めた
- 月に3〜4件受注するが、収入は安定しない
- 自信はあるが、発信やPRは苦手
- 未来は「会社に縛られず働きたい」
これくらい「生身の人間」を想定すると、課題は具体的に見えてくる。
■エンパシーマップで可視化すると“理解の粒度”が変わる
EMPの中核は、ペルソナの感情・行動・価値観を
“見える化”するエンパシーマップである。
先ほどの香織さんを例にすると、以下のように整理できる。
【エンパシーマップ:香織さん】
■見ているもの(See)
- デザイン系インスタの投稿
- 「フリーランスとして自由に働く」系のYouTube
- 価格競争で疲弊するSNSデザイナーの投稿
- ChatGPTやCanvaを使いこなす同業者
■聞いていること(Hear)
- 友人:「副業で食べるのは難しいよ」
- 上司:「本業に支障がないように」
- SNS:「価格が安いのは信頼されにくい」
- 家族:「体調を崩さないようにね」
■考えていること(Think)
- 「副業で月20万円稼げたら会社を辞められる」
- 「私のデザインは他と何が違う?」
- 「発信はしたいが、顔出しや強気なPRは苦手」
- 「AI時代、本当にデザインで稼げるのか…?」
■感じていること(Feel)
- 技術には自信があるが、価格設定には不安
- SNS発信に心理的抵抗
- スキルがAIに代替される恐怖
- 他者と比較して落ち込む瞬間が多い
■痛み(Pain)
- フォロワーは増えるが仕事につながらない
- 価格を上げると申し込みが止まる
- 顧客とのミスマッチで疲弊
- 将来の展望が描けない
■望み(Gain)
- 継続して依頼が入る状態
- 自分のスタイルを確立したい
- SNSで自然に仕事が生まれる導線
- “会社に依存しない働き方”
ここまで掘り下げると、
架空の人物が“実在の顧客”へと変わり、
課題も具体性を帯びてくる。
■ターゲット・ポジション・セグメント・市場規模まで逆算する
EMPは決して「感情分析」で終わらない。
ペルソナ理解を、事業の構造設計に接続することが目的だ。
香織さんを基準にすると、以下のような市場構想が導ける。
■ターゲット(Target)
「SNS発信が苦手だが、技術への自信はある地方副業クリエイター」
属性ではなく、“行動パターンで区切る”ことがポイントだ。
■ポジション(Positioning)
「SNSトーク力ではなく“言語化”で価値を上げるデザイナー育成」
差別化軸は“能力”ではなく“行動の前提条件”。
香織さんは技術に自信がある。
不足しているのは「言語化」。
ここがポジションの核になる。
■セグメント(Segment)
- 地方または郊外の副業層
- 実務スキルはあるが営業が苦手
- SNSの強気PRに馴染めない層
- 長期的には独立を視野に入れている
統計的な「属性」ではなく、
“心理的・行動的なまとまり”でセグメントする。
■市場規模(Market Size)
総務省データ・クラウドソーシング統計等から逆算すれば、
- 副業クリエイター:約数十万人
- うちデザイン系:10〜15万人
- 地方在住+営業が苦手な層:数万人規模
- 年間10万円以上投資意欲がある層:2〜3万人
市場は“狭いが濃い”。
専門性の高い価値提供に向いている。
■「具体的な1人」を起点にすると、未来ジャーニーが描ける
EMPが重視するのは、
今ジャーニー → 未来ジャーニーの変化
を可視化することだ。
香織さんの未来ジャーニーを構築すると──
- 自分のデザインの価値を言語化できる
- SNSで自然に仕事に結びつく
- 顧客との摩擦が減り、単価が上げられる
- 副業収入が20万円を安定して超える
- 独立を現実的に選べる状態になる
つまり、課題の解決は“単なる問題解消”ではなく、
顧客の未来を変えるシナリオ設計と同義になる。
ここまで描いて初めて、
プロダクトも広告戦略も一貫する。
■結論:EMPは「顧客理解」ではなく、「顧客の未来設計」である
従来のペルソナは静的で、
“誰かの特徴を箇条書きにしたもの”に過ぎなかった。
EMPの視点はまったく違う。
- ペルソナは具体的な1人から始まる
- 課題はその人の行動前提から生まれる
- エンパシーマップで心理と行動を可視化する
- 未来ジャーニーを描くことで、課題は“未来戦略”へ変わる
- ターゲット・ポジション・市場構造まで一貫する
EMPは“顧客像の整理”ではなく、
事業の方向性を決めるための思考装置である。
平均値のユーザーは存在しない。
存在するのは、あなたの身近にいる「具体的なあの人」。
その1人を深く理解するところから、事業は始まる。
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